cross-disciplinary study ダムの場合

筆者武田元秀さんは“土建屋の長男”に生まれ、機関車が出入りしていた郡山機関車最寄りで育ったため、ダムと鉄道の両方が好きになった。片方の愛好家(?)はいれど、どちらも好きとなるとなかなかお目にかかれない。好きが高じて「ダムをめぐる鉄道ばなし」をまとめたというのが本書である。鉄道ばなしと筆者は言っているか、どちらかというとダムの話という感想を持った。

あとがきに書いてあるように本書執筆にあたって改めてダムを訪ねてみたそうで、鉄道の車窓からの風景の描写は筆者と道中を共にしているかに思わせる。鉄道は脱線してはならないが、説明が度々脱線し、ダムの工法やダム建設を担当したゼネコンのエピソード、住人にとっては苦渋の決断だったはずのダムによる集落の沈没にも触れながら、ダムを巡る鉄道の旅が進む。

例えば第3章の長島ダム井川ダムでは、中空重力式コンクリートダムの工法に触れたり、井川ダム建設当時の間組の社長のエピソード、井川ダムにより沈んだ井川集落の補償、上流のダムの建設資材の運搬に使われた廃線跡に触れながら、大井川を遡っている。

ダム周辺の名所を列挙するのでは旅行ガイドだし、ダムの工法を説明するのでは土木の解説書になる。ダム訪問記だとただの日記だ。寄り道や脱線をしつつダムに対する知識を立体的、複合的にさせてくれるのが本書の魅力だと感じた。ダムと鉄道のcross-disciplinary studyの成果である。