ペンギンが飛べるまで育てる

カフェでコーヒーを飲んで、電車に乗って、パスタ屋で昼を食べて、自販機で飲み物買って、帰りの電車に乗って、近所のコンビニでお菓子を買って。。。全部財布から紙幣硬貨を出さずにSuicaで決済している。本書はもはやこれが存在しない生活が考えられないSuica開発の物語である。

ICカードは次世代のカードとして1980年代に注目されていた。1990年のJR東日本による磁気式自動改札機の導入計画を受けてICカード改札機の研究開発中止の危機があったものの、2000年頃の改札機更新時期のICカード導入を目指して研究開発の火を消さなかったのが、今のSuicaに繋がっている。ICカード対応の初期投資130億円をICカード改札機導入による改札機のメンテナンス費用削減で回収するとして、10年程度で回収できると見積もっていた。2010年頃の投資回収になるので、ICカードの研究開発から数えれば20年以上になる。セミの一生3回分、子供が成人するまで見守り続けのだ。

何しろ“ペンギンが空を飛ぶ”のだから、周囲は眉唾物に見ていたと思われる。それでもSuica開発者はICカードを普及させるという気概があったからこそ、メーカーからそっぽを向かれそうになってもプロジェクトが二人になっても、導入前の度重なる試行錯誤も乗り越えられたのだろう。

私は職業柄、1年単位や四半期単位で仕事を進めていくことが多い。毎年の基準や法律の改正を追い掛け、受ける側からすると朝令暮改な所属組織の方針転換に翻弄される日々で、10年後を想定するということはしてこなかったように思う。環境(政治経済社会技術)や、自分の境遇も数年で変わるだろうから10年後の想定が通じる保証はない(というか通じないと思った方がよい)が、10年掛けられる、続けられる何かを見つけるのは自分の精神的支柱になるはず。会計専門家として何を柱にしていくか考えるきっかけを与えてくれたのが本書だった。